リレーコラム#03 こどもがまちで働くワケ


大人がうまくやれる方法を先に子どもに伝えてしまうことで、子どもたちが失敗する機会をたくさん奪っていることが多いと感じます。    

_こどものまちスタッフ 井上ヤスミチ



リレーコラム3人目はイラストレーターの井上ヤスミチさん、通称「ヤッス」。

ヤッスは働きながら子どもたちのお世話や家のこともこなしていて、サラリーマンとは全く違う生活スタイルを貫いてます。一見自由奔放に見えるヤッスですが、意外にも(!?)こどもとの関わり方には強いこだわりがあるようです。


Q1 ヤッスの活動やお仕事を教えてください。

絵やイラストを描くこと。イベント会場でフェイスペイントをすること。子どもたち対象の工作ワークショップの企画運営も手掛けています。プライベートでは小6・小3・4歳の3人の子どもがいます。


Q2 こどものまちづくりに関わろうと思った動機はなんですか?

子どもたちの能動性・主体性を養うことや、そのための地域での活動に興味関心があり、全国の他のこどものまち的な取り組みをとても面白そうだと思いました。自分の子どもたちに体験させてみたいという気持ちも大きな動機の一つです。


Q3 自分のお子さんが参加した時に、親として感じたこと、考えたことはありますか?

小学生の二人が参加していますが、参加する日によって、とても楽しめたり気分が乗らなかったりするようです。親が「これはきっとこの子にとって良い」と思っても、本人がやりたがるか、楽しめるかはまた別なのだなと感じました。

僕は子ども達の将来についてとやかく指示するつもりはあまりなくて、地球上のどこでもいいので、自分の生きやすい環境や生き甲斐になる役割を自分自身の足と頭でみつけて、そこでいきいきと暮らしてくれたらいいなと思います。それを自分で探す主体性とか、行動力とか、人の役に立ったらなんだか嬉しかったという経験のようなものが、子ども時代に体験できるといいだろうなと思います。


Q4. 参加する子ども達を見て成長に有意義な点はどこにあると思いましたか?

大人立入禁止なので、何かを作っていて「早くして!」と大人にせかされるということがありません。何か問題が起きても身の丈のアイデアであれこれ考え、やってみてうまくいかなかったという体験ができ、そこから工夫する時間もチャンスもあります。

例を一つあげると、僕はまちの娯楽施設であるゲーム屋さんと、そこに新しいゲームを開発して納品するゲーム研究所を主に担当していました。

ある日、ゲーム研究所で男子二人がサッカーゲームを作り始めました。ダンボールと竹串とテープで試行錯誤して、とてもかっこいい見た目のサッカーゲームが完成。ただし形はできたものの、棒を回しても人形が回転せず空回りしたりと精度はいまいち。けっこうな時間をかけてやっと形ができたので二人は満足し、ゲーム屋さんの店長(こどもです)に新商品を売り込みに行きます。

店長が問題だと感じれば買い取らずに改良を求めて返すこともできますが、店長はサッカーゲームの見た目を大いに気に入ったようで値段交渉の末に買い取りが成立し、サッカーゲームはゲーム屋のラインナップに加わります。

↑男子二人がサッカーゲームを作り始めたところ。大人からの助言は無し。よくサッカーゲームの形まで完成させたと思う。


数時間後に、それを遊んだお客さん(もちろんこどもです)から「棒を回しても人形が回らない、ビー玉より人形が弱くてふにゃふにゃ折れて蹴れない」という苦情が出て、店長がゲームをチェックして研究所に改良を依頼し、研究所にはサッカーゲームを作った二人はもういなくなっていたのですが、「わたしやりたい」と一人の女の子が手をあげて、その子がすでに形はできているサッカーゲームの問題箇所を探してひとつひとつ補強して、より楽しく遊べるものが納品されることになりました。

形を作るのが得意な子もいれば、問題を修正するのが得意な子もいると思うし、遊ぶのが得意な子もいる。良いものができるまでには、一人の子どもでは飽きてしまうくらい長い時間と手間がかかります。


最初の段階で、「そのサッカーゲームにこういう問題があるのではないか」とか「こうしたらもっとうまくいく」と大人が指摘すればより早く良いものが出来ますが、ここではそれほど早さはや完成度の高さは重要ではなくて、身の丈のアイデアと技術でとりあえず作ってみて、気づいた子の指摘を受けたりちょっとした問題が起きたりして、もうちょっと良いものに工夫していく、という失敗とチャレンジを何度も繰り返していくことが大事なのではないかなと思います。


↑完成したけどもお客さんから苦情が来て、研究所で改良されたサッカーゲームの最終形。パッと見はそう変わらないのだが、随所に補強が入って楽しく遊べるようになった。




Q5 ということは、大人にせかされることは良くないことと考えている?

朝の支度から夜の就寝まで、せかさないとならない場面は毎日あると思うし、せかすのが悪だとは言いません。ただ自由にのびのびとなにかを作っていたり遊んでいたりする時に、せっかくのびのびやっているのならその時間は大事にしてあげたいなと思います。

僕は親子対象の工作ワークショップを企画運営することがありまして、よく見かけるのがとにかく周囲の大人が先回りして、うまく早く作れるようにとサポートが過剰になったり、指示ばかりになったり、むしろそこまでいくと親御さんの好みで作っていますよね、というような状況。

かわいいのを作らせてあげたい、うちの子はこういうもののほうが好きだ、時間内に間に合うようにしなくちゃかわいそう、、、指示する大人に悪気は無くて、その子のことを思ってやっているのはよくわかります。僕自身も実生活でそういう時がたくさんあるし。

親や周囲の大人でさえも失敗を嫌ったり恐れたり(あるいは時間に追われたり)していて、うまくやれる方法を先に子どもに伝えてしまうことで、子どもたちが失敗する機会をたくさん奪っていることが多いと感じます。

失敗はけして悪いことではないので、まずやってみて、失敗から原因を探って工夫して、うまく機能するようになったり、工夫の中で思わぬ発見があったり、そこに面白さを感じたりすることを大事にしていきたいです。なんでもうまくやらなければいけないことなんてないし、失敗から自分なりに工夫して少しずつうまくやれるようになるのってとても楽しくて充実感があります。大人の手を借りず、自分たちだけでこんなことができたということの積み重ねは、生きていくうえでの自信につながると思います。


僕が仕事で請け負う工作のワークショップでも、どうしても時間の区切りがあるものがほとんどです。1時間とか、よほど長いものでも3時間程度。なので、企画する側はその時間内でみんなが満足感を得られるようなバランスを考えます。その点こどものまちは、春休みに10日間、毎日6時間ずつやっていて、まず時間がたっぷりあります。好きな時間に来て、やめたくなったらやめていい。先回りしたりせかしたりする大人もいない。先導する大人がいないので、初めて会った子ども同士で聞いたり教えたり話をして決めていく空気がそこにできていきます。

まちで働いていくうちに、不満がでたり問題点に気づいたり「俺ならこうするのに」という自分なりのアイデアが浮かんだりして、やりたいことが生まれる子もいるでしょう。こういうことがいずれ子どもたちの中で日常化するようになったらいいなと思いながら、こどものまちに関わっています。

こどものまちを小規模ながらも日常化するような企画になる「こどもスタートアップ塾」も、趣旨は同じ。スタートアップ塾でそんな発想力を身につけた子どもたちがこどものまちでどんな活躍を見せてくれるのか、とても楽しみです。


絵を描くことを生業としているヤッスにとって、こどもたちがのびのびと制作できる場をつくりたい!と思う気持はとても自然なことのようです。

次回のコラムは、こどもからお年寄りまで自然に混ざり合う場所をつくっている藤岡聡子さん。「好きなことに没頭する人が起こす奇跡」を教えてくれるよ。

ではでは、またね。



こどもDIY部ではこどものまちを常設化することを目指しています。実際には60㎡のアトリエでは「まち」はできません。でもWEBという広く世界に繋がる場所を利用することを考え、そのWEB開発費をクラウドファンディングで集めいています。こども達が自由に挑戦できる場づくりにぜひ力を貸していただけませんか?

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